H&Rブロックの「数の戦略」に新しいビジネスの可能性を見た
2015/09/09
4ヵ月で1億円を実現する効率アップの仕組み
今夏、開催された「米国CPAツアー」。全国各地の税理士先生約30名が参加した本ツアーでは、共催したワシントン大学フォスター・スクール・オブ・ビジネスでの講義のほかに、アメリカ最大の申告代行会社H&Rブロックにも訪問取材を行った。
そのCPAツアーで得た米国会計業界の最新事情を収録したDVD「米国会計事務所に学ぶ７つの問題解決」より、H&Rブロックへの取材の様子をお届けする。
わずか4ヵ月で3600件以上の申告を行う
「今年の税務申告シーズンには、何件の申告を行いましたか？」
参加者からの質問が、シアトルにあるH&Rブロックのオフィス・マネージャーを務めるGordon R.Cheever氏に向けられると、彼はこう答えた。
「私が任されているふたつのオフィスがあります。今年は3600件の申告を行いました。それぞれ5名ほどのスタッフで回しています」
膨大な量をわずかなスタッフでこなしていく。このスタッフたち、さぞや優秀な知識と経験を持っているのかと思いきや、そういうわけでもない。
税務申告の作業は、1月1日から4月15日までの約4ヵ月に、年間の80％が集中する。
ピーク時に作業に当たる作業員多くが臨時で雇われる「季節作業員」。季節作業員たちは全員無資格だ。会計の知識を持ち合わせない彼らのために、H&Rブロックでは研修を行い教育を施している。
資格もない、はじめは知識もない、しかし社内研修を施すことで作業を行える、そんなシステムが構築されているのだ。
2～3万円の報酬にしかならない仕事を積極的にやりたがる人は少ないだろう。しかし、数を積み上げることでわずか4ヵ月で何千万円もの売上になるとしたらどうだろう。
H&Rブロックのスタッフのなかには、ひとりで600件もの申告をこなす人材がいるという。仮に1件3万円の報酬になる業務を、4ヵ月の間に１事務所で1,500件行うことができたら、それだけで4,500 万円の売上になる。オフィスが2つあれば1億円に届かんとする規模の金額だ。今後の事務所経営において、この部分についてもう一度考えてみる必要がある。
シンプルな会計サービスを求める層へのアプローチ
「なぜ、H&Rブロックが上場を果たすまでに成長できたのか？」
本ツアー参加者からの質問に対して、CPAツアーで講師を務めたJimLadd氏は答えた。
「新しいサービスだったからです。アメリカでは高付加価値サービスはCPAが、単なる税務申告はH&Rブロックのような申告代行会社が行います。CPAファームに依頼するほど高付加価値のサービスは求めてはいない一方で、シンプルな会計サービスは受けたいと考えているマーケットが存在したのです」
日本の会計業界においても、スモールビジネスや個人事業主に対してのアプローチが必須となった。
日本の会計事務所においても、コンサルティングや融資の手配といった高付加価値をもたらすものと、記帳代行などの作業の区別を明確にし、効率化を推進することで、新しいマーケットを対象にしたビジネスを構築できるかもしれない。