広瀬元義・勝手にコラム『業界最前線』
<vol.5>会計事務所は売り時を逃すと何もなくなる!?
所長がいなくても機能する会計事務所は
「売る」ことを前提につくり上げられる!
今回は、神奈川県のある会計事務所の所長税理士の話をしたい。この所長は3年前に勤務税理士として事務所に入り、1年前に85歳の先代所長が亡くなり、事務所を引き継ぐことになった。
先代所長には55歳の2代目がいた。厄介なことに無資格でなんにも仕事をせずに、ただ威張っているだけ。仕事をしないというより、仕事ができないのだ。
幸い15人ほどの職員は新所長に好意的で、ついてきてくれている。そのとき、2代目はどうなるか。仕方がないので、月に10万から15万円程度の給料で「お手伝い」として置かざるをえないようだが、事務所の財政上、実はそれも苦しいという。
これこそ、事務所の売り時を逃した例といえるだろう。先代が亡くなる前ならば他の事務所に営業権を譲渡するという選択肢があった。しかし、新所長が引き継いで采配していては営業権譲渡という状態ではない。
亡くなった先代所長の立場でみると、売り時を逃したために、何もなくなってしまったといえる。結局、亡くなった先代所長は息子に何も残せなかったのだから。
財産に惚れ込み過ぎてはいけない
アメリカのことわざに「Don't fall in love with your property」という言葉がある。つまり「財産に惚れ込み過ぎてはいけないよ」ということだ。不動産と同様に、会計事務所もベストの売り時があるのだ。
もっとも、先代所長の子供の育て方にも問題があったとも考えられる。
アメリカの会計士から聞いた話だが、日本では子供の就職時に親が保証人になるケースはよくあるが、アメリカではそのようなことはないという。子供に対してある意味シビアで、ビジネスと家族を切り離しているのだ。
子供が同じ会計事務所に勤めている所長税理士は、こうした点を頭の片隅に入れておくとよいだろう。
事業の専門的能力と経営能力は別
ここで、どうやって会計事務所をつくるかということを考えてみたい。多くの税理士であったり、いわゆる『職人的』な人たちの最も致命的な欠陥は何かという
と、事業の中心となる専門的能力を持っていたら、事業を経営する能力も十分に備わっていると勘違いしてしまうところにある。事業の専門的仕事をこなすこと
と経営することとは別なのだ。
ところが独立して会計事務所を開いて一日14時間くらい、土日も休まず一生懸命仕事をやり、仕事がそこそこ増えてくると「目の前に仕事があるから十分
じゃないか」と納得するようになる。これでは結局、会計事務所を経営していることにならない。ただ単純に目の前の仕事をさばいているだけに過ぎないのだ。
素晴らしい会計事務所とは、所長がいなくても機能している事務所を指す。つまり、事務所を「売る」ことを前提で考えることが、所長抜きで機能させることなのだ。
今、この記事を読んでいる若手の税理士先生は、そのような事務所をつくり上げる前提で事務所を経営していくことをすすめる。
また、60歳を過ぎたベテランの税理士先生は、自分の事務所を売ることを早急に事業計画に組み入れるとよい。そうでないと、家族の財産がなくなってしまいかねない。
ニュースは違う人が同じ事をやっている
アメリカの有名なスピーカーであるピーター・セージは「私はニュースを観ないんだ」と話している。これはどういうことか。ニュースの中身は違う人が同じ事をやっているに過ぎないのだ。ニュースで報じられる数々の凶悪事件も、これが当てはまるだろう。
会計事務所もこれと同じ。例えば、突然ボスが亡くなって残されたメンバーがあたふたして大変な思いで承継するといった他人の出来事は、いずれ自らにも降りかかってくるといってもよい。それを前提として事務所経営を考えていかなければいけないのだ。
広瀬 元義
株式会社アックスコンサルティング 代表取締役
会計事務所マーケティングの第一人者。1988年 株式会社アックスコンサルティングを設立。不動産コンサルティング、会計事務所向けコンサルティングを中心に業務を展開。2005年からは、会計事務所のネットワーク組織『FANアライアンス』を新たにスタート。Webコンサルティングやアウトソーシングなど新しいビジネスコンテンツをはじめ、経営計画や決算カウンセリングの開発を手掛け、多くの会計事務所の注目を集めている。また、AAM(米国会計事務所マーケティング協会)の正式メンバーとして常に最新情報を入手し、日本の会計事務所業界の成長発展に貢献している。


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